コモドドラゴンと聞くと、大きな体で地面を歩き、シカやイノシシを狙う姿がよく知られています。ところが、生まれたばかりのコモドドラゴンは成体とはまったく異なる生活を送ります。孵化した赤ちゃんは木に登り、樹上を生活場所として利用するのです。世界最大のトカゲになる動物が、幼い時期には木の上で暮らしているというのは、コモドドラゴンの生態のなかでも特徴的な部分でしょう。
コモドドラゴンの赤ちゃんが木の上で暮らす最大の理由は、大きなコモドドラゴンとの接触を避けるためです。ただし、理由はそれだけではありません。幼体の体格に合った食べ物が見つかること、小さな体なら枝の上を利用できること、休む場所や体温を調節する環境を確保できることなど、いくつもの条件が重なっています。そして成長すると少しずつ地上で過ごす時間が増え、やがて私たちがよく知る大型のコモドドラゴンへと変わっていきます。

※画像提供: ©サラトラベルコモド
赤ちゃんは木の上で暮らす
コモドドラゴンの卵は地中の巣で孵化し、赤ちゃんは自分の力で地上へ出てきます。野生の孵化直後の個体を追跡した研究では、体重は100gほどしかなく、成体とは比べものにならないほど小さな体でした。巣から出た幼体はその周辺にとどまり続けるのではなく、木を利用しながら出生場所から離れていくことも確認されています。とくに孵化したばかりの個体では樹上で過ごす割合が高く、少し成長した幼体になると地上を利用する割合が増えていました。つまり「子供のコモドドラゴンは木の上にいる」という話は単なる言い伝えではなく、野生個体の追跡調査でも確認されている習性なのです。
ここで知っておきたいのは、コモドドラゴンの赤ちゃんが、ある年齢になるまで木からまったく降りないわけではないことです。樹上生活から地上生活への変化は、ある日突然起こるものではありません。小さなうちは木の上を多く利用し、体が大きくなるにつれて地上で過ごす割合が高くなります。その変化には年齢だけでなく体格が強く関係しており、コモドドラゴンの成長そのものが生活場所を変えていくと考えたほうが自然でしょう。同じコモドドラゴンでも、赤ちゃん、幼体、成体では暮らしている場所がかなり違うのです。
大人のドラゴンから離れる
木の上で暮らす最大の理由として考えられているのが、成体をはじめとする大型のコモドドラゴンとの接触を避けることです。コモドドラゴンには共食いがあり、自分より小さな同種の個体を捕食することがあります。成体から見れば、小さなコモドドラゴンも食べ物になり得ます。そのため、孵化したばかりの赤ちゃんが大型個体と同じ地上空間を利用していれば、遭遇する機会も増えます。そこで小さな個体だけが利用できる木の枝や樹上空間を生活場所にすることで、成体との接触そのものを減らしていると考えられています。
「成体のコモドドラゴンは木に登れない」と単純に考えるより、体格の違いに注目したほうが分かりやすいでしょう。赤ちゃんは体が軽いため、細い幹や枝まで利用できます。それに対して、成長して数十kgにもなる大型個体では、同じ場所を利用することはできません。野生個体の研究でも、体が大きくなるほど樹上で過ごす割合が下がるという明確な関係が確認されています。幼体だけが利用できる空間が自然のなかに存在し、それが大きな個体との生活場所の分離につながっているわけです。コモドドラゴンの共食いと幼体の樹上生活は、別々の習性ではなく、深く関係していると考えられています。

木の上には食べ物もある
樹上生活は、成体から離れるためだけのものでもありません。コモドドラゴンの赤ちゃんと成体では、狙う食べ物が大きく異なります。巨大な成体はシカやイノシシなど地上で暮らす大型動物を利用しますが、生まれたばかりの個体には、そのような獲物を捕らえる体格も顎の大きさもありません。幼体が必要としているのは、自分の口で食べられる小さな獲物です。野生での観察では、ヤモリなどの小型爬虫類が幼体の獲物として確認されており、そのほかにもトカゲ類や大型昆虫などが食べ物になると考えられています。
そう考えると、木の上は単なる避難場所ではなく、幼いコモドドラゴンにとって食事の場所でもあります。大きなシカを狙う成体が地上を利用し、小さな昆虫や爬虫類を狙う幼体が樹上を利用することで、同じ島に暮らしながら異なる食べ物を利用できます。コモドドラゴンは成長するにつれて体の大きさが何十倍にもなり、それとともに狙える獲物も変わります。その最初の段階を支えているのが、木の上にいる小さな生き物なのです。幼体の樹上生活は、身を守ることと食べることの両方に関係した生活方法だといえます。
小さな体だから登れる
コモドドラゴンの赤ちゃんを見ると、成体とは体つきがかなり違います。大型の成体は地面を押さえるような太い四肢と重い胴体を持っていますが、幼体はずっと細身です。長い尾を使って体のバランスを保ちながら木を利用できるため、地上で暮らす成体とは違った場所まで活動範囲にしています。コモドドラゴンの尾は成長後には防御や攻撃にも使われますが、小さな個体にとっては樹上で姿勢を保つ役割も担っています。幼体の体そのものが、木を利用する生活とよく合っているのです。
また、幼体が好んで利用する環境として、開けた落葉樹林が確認されています。コモド諸島には乾いたサバンナの景観が広がっていますが、幼体はどこにでも同じようにいるわけではありません。木があり、日なたと日陰が混在し、小さな獲物も見つかる場所をよく利用します。爬虫類であるコモドドラゴンは周囲の温度を利用して体温を調節するため、日光を受ける場所と木陰の双方がある環境は幼体にとって都合のよい生活場所になります。木は成体との距離を保つ場所であり、食べ物を探す場所であり、休息する場所にもなっているわけです。

成長すると地上で暮らす
コモドドラゴンの赤ちゃんは、成長するにつれて少しずつ木の生活から離れていきます。ここでも基準となるのは「何歳になったから地上で暮らす」という年齢ではなく、体の大きさです。野生の幼体を追跡した研究では、体格が大きくなるほど樹上利用が減少し、地上で過ごす割合が高くなることが確認されています。これは体重が増えて細い枝を利用する必要がなくなることに加え、大型のコモドドラゴンから捕食される危険が相対的に小さくなること、そして地上にいる大きな獲物を利用するようになることが関係していると考えられています。樹上生活から地上生活への変化は段階的に進んでいくのです。
こうして見ると、コモドドラゴンは生まれたときから「小さな成体」として暮らしている動物ではありません。赤ちゃんの時期には木の上という独自の生活場所を持ち、小型爬虫類や昆虫などを食べながら成長します。そして体が大きくなるにつれて地上で活動する時間が増え、より大きな獲物を利用するようになり、最終的にはコモド諸島の頂点捕食者になります。木の上で過ごす幼体と、地上を歩く巨大な成体はまるで別の動物のように見えますが、その違いこそがコモドドラゴンという種の特徴なのです。コモドドラゴンの赤ちゃんが木の上で暮らすのは、単に木登りが得意だからではありません。成体との接触を避け、自分の体格に合った食べ物を探し、小さな体を生かして成長するための生活場所として、樹上を利用していると考えられています。


