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    コモドドラゴンの単位生殖が自然界で起こると…

    コモドドラゴンには、雄と交尾しなくても雌だけで子を残す「単為生殖」という能力があります。哺乳類ではほとんど想像できない繁殖方法ですが、爬虫類ではいくつかの種で確認されており、コモドドラゴンもその1種です。しかも、普段から単為生殖だけで繁殖しているわけではありません。雄がいれば通常の有性生殖を行い、条件によっては雌だけでも繁殖する「条件的単為生殖」が可能なのです。

    では、コモドドラゴンの単為生殖が自然界で起こると何が起きるのでしょうか。単純に「雌1頭だけでも子を産める」という話ではありません。生まれる子の性別、遺伝子の組み合わせ、その後の繁殖、島ごとの個体群まで考えていくと、コモドドラゴンがインドネシアの限られた島々で生きてきたこととも関係する、独特な繁殖戦略が見えてきます。


    目次

    雄がいなくても子が生まれる

    コモドドラゴンの通常の繁殖では、雌がつくった卵子と雄の精子が受精し、父親と母親からそれぞれ遺伝情報を受け取った子が生まれます。ところが単為生殖では雄の精子を必要としません。雌の体内で卵子がつくられる際には減数分裂が行われますが、その過程で分かれた母親由来の染色体が再び組み合わされ、受精していない卵から胚が発生します。このため遺伝情報はすべて母親に由来します。ただし、母親をそのままコピーしたクローンではありません。減数分裂の際に染色体の組み合わせが変わるため、母親とも兄弟同士とも遺伝的に同一ではないのです。

    コモドドラゴンで単為生殖が科学的に確認されたのは、雄から隔離されていた雌が産んだ卵を遺伝子解析したことがきっかけでした。父親由来の遺伝情報が見つからず、子の遺伝子が母親だけから受け継がれていることが示されました。しかも別々に飼育されていた複数の雌で確認されており、1頭だけに偶然起きた特殊な現象ではありません。コモドドラゴンという種そのものが持つ繁殖能力だと分かったわけです。普段は有性生殖を行う大型爬虫類が、状況によって繁殖方法を変えられるところに、この生き物の特徴があります。


    単為生殖では雄だけが生まれる

    コモドドラゴンの単為生殖を理解するうえで欠かせないのが、性染色体です。人間では女性がXX、男性がXYですが、コモドドラゴンでは仕組みが異なります。雄がZZ、雌がZWです。つまり、異なる2種類の性染色体を持つのは雌になります。この違いが、単為生殖で生まれる子の性別を決めています。

    雌のコモドドラゴンはZとWを持っているため、卵子にはZまたはWのどちらかが受け継がれます。単為生殖で母親側の染色体だけを使って2組に戻ると、組み合わせはZZまたはWWになります。ZZは雄として発生しますが、WWは正常な個体として発生を続けられません。その結果、孵化まで成長する単為生殖の子はZZの雄になります。雌1頭しかいない場所で繁殖が起きても、そこで生まれる子まで雌になるわけではないのです。この「雄を生み出す」という特徴は、コモドドラゴンの単為生殖を考えるうえで特に重要です。


    自然界では島への進出にも関係する

    コモドドラゴンはインドネシア東部の限られた島々に分布する大型のオオトカゲです。こうした島の環境では、海によって別の島と隔てられているため、新しい場所にたどり着いた個体が必ずしも雄と雌のペアとは限りません。仮に成熟した雌1頭だけが別の島や隔離された地域に到達した場合、通常の有性生殖しかできない動物なら、その雌だけで次の世代を残すことはできません。ところがコモドドラゴンには単為生殖があります。

    雌が単為生殖によって雄を産み、その雄が成長すれば、その後は雌と雄による有性生殖へ戻る可能性があります。有性生殖から単為生殖へ完全に切り替わるわけではなく、再び通常の繁殖を行えるところがポイントです。この性質から、単為生殖は島のように個体が隔離される環境で、繁殖を途切れさせない役割を持った可能性が考えられています。コモドドラゴンが現在の島々へ分布を広げた過程そのものを単為生殖だけで説明することはできませんが、「雌1頭から雄を生み、その後に有性生殖へ戻れる」という能力は、島に暮らす大型爬虫類として非常に特徴的だといえます。


    遺伝的多様性は大きく減る

    単為生殖には、もう1つ見逃せない特徴があります。父親の遺伝情報が加わらないため、有性生殖と比べて子が持つ遺伝子の組み合わせが大幅に限られます。コモドドラゴンの単為生殖個体を調べた研究では、解析された遺伝子座で非常に高いホモ接合性が確認されました。ホモ接合とは、同じ遺伝子型が2つそろった状態です。通常の有性生殖では父親と母親から異なる遺伝子を受け取る機会がありますが、単為生殖では母親が持つ遺伝情報だけを使うため、同じ型がそろう割合が高くなります。

    自然界で単為生殖が何世代も繰り返された場合、個体群の遺伝的多様性は小さくなっていきます。感染症への抵抗力や気候、餌環境などが変化した際、遺伝的な違いを持つ個体が多い集団ほどさまざまな性質が残りますが、遺伝子の組み合わせが似た個体ばかりになると、その幅が狭くなります。また、母親が持っていた劣性の遺伝子がホモ接合になることで、それまで表面に現れていなかった性質が子に現れる可能性も高まります。単為生殖で生まれたコモドドラゴンが直ちに弱いということではありません。確認された個体には正常に成長した例もあります。問題になるのは、単為生殖だけが何世代にもわたって続いた場合です。


    単為生殖だけで増える動物ではない

    ここまでを見ると、コモドドラゴンは雄がいなくても繁殖できるため、単為生殖だけで個体数を増やせるようにも見えます。しかし、この生殖方法は通常の有性生殖に代わるものではありません。コモドドラゴンは本来、雄と雌が交尾して繁殖する動物であり、単為生殖を行った雌が後に雄と交尾し、有性生殖で子を残した例も確認されています。つまり、2つの繁殖方法を持ちながら、通常は有性生殖によって遺伝的な組み合わせを広げていると考えたほうが自然です。

    自然界でコモドドラゴンの単為生殖がどの程度の頻度で起きているのかについては、野生の出生個体を長期間にわたり遺伝子解析した十分な数字はまだ示されていません。そのため、野生のコモドドラゴンの何%が単為生殖で生まれているのかを数字で示すことはできません。ただ、単為生殖が起きれば雄が生まれ、その雄を介して有性生殖へ戻れること、同時に単為生殖では遺伝的多様性が大きく減ることは、遺伝学的に明確になっています。

    コモドドラゴンの単為生殖は、「雌だけで子を産める」という珍しい現象だけを見て終わる話ではありません。雄がいない状況でも次の世代を残し、しかも生まれた雄によって再び有性生殖が可能になる一方、単為生殖が続けば遺伝子の組み合わせは狭くなります。島ごとに隔てられた環境で暮らしてきたコモドドラゴンにとって、単為生殖は繁殖を一時的に維持する仕組みとして働き、有性生殖は個体群の遺伝的多様性を保つ役割を担っていると考えられます。世界最大のトカゲとして知られるコモドドラゴンには、体の大きさや捕食能力だけでは分からない、生殖の面でも独特な特徴が備わっているのです。


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